大学院経済学府・専攻紹介

2000年度、長い伝統をもつ九州大学大学院の経済学研究科は、大学院重点化とともに、九州大学独自の学府・研究院制度を導入しました。大学院を教育組織としての学府と研究組織としての研究院に分けました。教育組織は経済学府、研究院は経済学研究院となりました。経済学府は、経済工学、産業・企業システム、国際経済経営の3専攻、経済学研究院は、同様に3部門構成となりました。さらに、2003年度からビジネス・スクール=産業マネジメント専攻が新たに設置され、産業・企業システム、国際経済経営専攻が統合され、経済システム専攻となりました。これで、経済学府は、経済工学、経済システム、産業マネジメントの3専攻、経済学研究院は、経済工学、産業・企業システム、国際経済経営、産業マネジメントの4部門となりました。産業マネジメント専攻は、専門職大学院でMBAを取得する課程として発足しました。この専攻には、人間環境学研究院、工学研究院、言語文化研究院から数名の教員が参画し、経済学研究院からは、産業マネジメント部門だけでなく、産業・企業システム、国際経済経営部門からも参画しています。

経済工学専攻

経済工学専攻は、経済システム解析講座、政策分析講座、数理情報講座の3大講座から構成されています。複雑化・不確実性の度合いを強めつつ進化する現代社会の創造的発展をにないうる高度専門研究者・専門職業人の養成が目標です。
教育・研究上の特徴は、第1に、高度な理論的・計量的分析の手法を開発・使用して、経済問題を科学的に解明し、先端的研究領域における革新的・独創的な研究を切り開く創造的能力を身につけられる点にあります。 第2に、経済と政治が複雑に絡み合っている生きた経済社会に対する現実感覚にもとづいて政策課題を認識し、課題の研究を分析ツールにフィード・バックしつつあらたに構想するという手法を学習できること。第3に、経済・経営問題に関する高度かつ最新の数理・情報解析の手法を開発・活用する能力等を修得できることです。
経済システム解析講座では、数理的手法を用いてマクロ経済、ミクロ経済レベルでの諸問題を理論、実証の両面から分析します。ミクロ経済分析、情報の経済分析、経済モデル解析、マクロ経済分析、計量経済学、マクロ数量分析とから成り立ち、理論モデルを構築して、それをもとに現実問題の解決策を構想します。現代的な課題である公共政策、情報、環境、開発経済、景気変動等の理論的、実証的研究が展開されています。
政策分析講座では、多様な経済問題に関する政策を分析し評価するための知識と手法を学び、新たに提言することが課題です。中心的なテーマは、市場による調整と公的な介入をどのようにバランスさせるか、効率と公正の両立等、財政、金融をはじめ雇用、福祉といった経済政策に直接結びついたものから、企業、政府及び政治のガバナンスの問題等も含む広範囲なものです。
数理情報講座では、経済分析のための数学的手法、数理計画法とその関連分野、経済・経営データの解析手法、数理ファイナンス等のための確率・統計理論とその応用、情報処理・管理のためのコンピュータ技術など、数理的理論や情報処理手法の研究が精力的に進められています。

経済システム専攻

現代の経済社会においては、世界経済、国内経済、地域経済などの多層的な経済空間、および財政、金融、産業、企業などの経済制度・経済主体が、相互に複合的に関連しつつ経済システムを構成しています。現代の経済システムは、先端的科学技術の急速な発展や、経済のグローバル化・市場経済化の進展、環境・福祉面における市場ニーズの変化などによって大きく変容しています。そのなかで、大学には、経済社会がかかえる問題に対処していける人材を育成することが求められています。
経済システム専攻は、経済システムを「現代経済分析」「世界経済分析」「産業分析」「企業分析」という4つの側面から多面的、多層的、総合的に分析し、高い専門性だけでなく、広い問題関心と鋭敏な現実感覚、複合的な分析能力を身につけ、国際的に活躍できる研究者、専門職業人の養成をめざしています。本専攻で養成する人材は、産業と技術のマネジメント分野のプロフェッショナルやアジア・ビジネスのリーダーを養成する産業マネジメント専攻(ビジネス・スクール)とは異なっています。
修士課程においては、博士後期課程進学者を対象に、基礎的な研究能力向上のための指導を通じて、研究者養成を図ります。また、ビジネス界における専門知識や国際コミュニケーション能力を有する人材ニーズの高まりや、公認会計士や税理士など資格取得希望者による専門知識の習得、留学生や社会人を対象とする専門職業人教育にも対処したいと考えています。さらに博士後期課程においては、現代社会において生起する種々の問題を冷静かつ客観的に観察・分析し、それを踏まえて深く課題を探求し、問題の解決方向を見出していくための理論・方法を提示できる研究者・高度専門職業人を養成していきたいと考えています。これらは、学術分野の第一線で国際的にも活躍できる研究者、産業マネジメント専攻を修了した実践志向的な研究者、現場において研究能力を生かせる高度専門職業人(エコノミスト、リサーチャー、フィールド・ワーカー)、国際機関の第一線で活躍できる人材、高い専門知識を有する社会人などから成ります。
本専攻の学生は、4つの専門領域のいずれかに立脚し、必修である「経済学方法論」をはじめとする大学院基本科目および専門科目群を中心に専門性を深めるとともに、他専門領域、他専攻の科目を履修することによって総合力を身につけることができるでしょう。あわせて、経済学・経営学を専門に学んでいない学生に対する学部講義を含む基礎的科目の一定単位数の履修、留学生に対する特別講義・日本語教育(他学府)、また修士・博士論文作成を複数の教員で指導するリサーチ・ワークショップなど、カリキュラム編成上の特色を持たせています。

産業マネジメント専攻

産業マネジメント専攻は、2003年4月1日、経済学府に新設された専門職大学院のビジネス・スクールです。入学定員は45人、原則2年間の課程を修了するとMBA(Master of Business Administration 経営修士)が授与されます。学生には実務経験が重視されますので、多くが社会人学生ですが、学部や大学院から直接進学する学生を一定程度受け入れています。これは本専攻の特徴のひとつです。国立大学のビジネス・スクールとしては商科系大学の一橋大学、神戸大学などに次いで第3番目の設置、総合大学ではわが国初の本格的なビジネス・スクールです。それだけに九州大学の総合力を活かした独自な教育ビジョンを掲げています。一言でいえば、「アジアのビジネスと技術のマネジメントのわかるMBA」の育成です。九州大学の総合的、先端的な知の仕組みを活かして、発展するアジアと連携しながら、新しい産業社会のフロンティアを切り開いてゆく高度な先端的なビジネス能力のみならず技術マネジメント(MOT:Management of Technology)の能力を修得した人材の育成を目指しているのです。
なぜ、このようなビジネス・スクールが必要なのでしょうか。その理由として、経済社会のあらゆる側面でグローバル化、ネットワーク化、情報化が急速に進展して、ビジネスのあり方や企業間競争がこれまでとは質的に大きく変化していること、先端技術の発展や技術革新のスピードがビジネスのあり方を根底から変えつつあること、特にアジアのビジネスにおいてこのような変化が激しくあらわれていることなどを指摘できます。このために21世紀に求められる人材は、これまでとは大きく変わらざるをえません。新しい人材は、産業や企業の創造的変革を担うビジネス・プロフェッショナルであり、技術をマネジメントしながら産業のフロンティアを切り開くビジネス・イノベーターであり、アジアの経済を先導するビジネス・リーダーです。本専攻はこのような新時代の産業社会を先導するビジネス・リーダー育成の場として開校されました。
カリキュラムは、社会科学のビジネスの知と自然科学のサイエンスやエンジニアリングの知が、グローバル化するアジアのビジネスの場で実践的なマネジメントの知として発揮されるように編成されています。担当する教官の半数以上がわが国を代表する企業の第一線で国際的に活躍された実務家教官です。経済学研究院、工学研究院、人間環境学研究院、言語文化研究院などに所属する教官がこれに加わって、実践と理論が融合した教育が展開されます。
授業では、ケース・スタディ(ビジネスの事例研究)、ディベイト(討議)、視聴覚教材などを織り交ぜた実践的な思考訓練が繰り広げられます。また深い論理的な思考を磨くために、学生の個々が抱くビジネス課題を、指導教官と共に分析的論理的に究明するプロジェクト演習が行われることは、欧米のビジネス・スクールにない大きな特徴です。さらにインターンシップ(ビジネス現場での実習)では、修得した知識の実践的なマネジメント能力への転換が促進されます。他方、グローバルに活躍するためには国際語である英語能力を欠くことはできません。そのため、英語で行われる授業を一定程度以上修得することを求めています。この他にE-ラーニング・システムを通じて、社会人の就学を支援するとともに、教育研究の国際的なネットワーク化を図ることも本専攻の特徴です。
産業マネジメント専攻は、これまでに述べてきたようなビジネス・プロフェッショナル育成の場です。しかし、そればかりではありません。ビジネス・スクールの実践的な知的活動を活かして、新時代を切り開くビジネス創造の知的拠点として、またアジアにおけるビジネス教育研究の拠点として、知的ネットワークの中心性を発揮してゆきます。産学官のコラボレーションを促進しながら、ビジネスの知を創造してゆくことによって、本専攻は知的産業インフラとして機能することになります。さらにアジアの有力ビジネス・スクールと単位互換等を含む教育研究交流を促進する「アジア・ビジネス・プログラム」を推進しながら、本専攻がグローバルなビジネス教育研究のネットワークの中心として、活発に知的な学術交流を目指しています。
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